Interview/インタビュー

仲間と共に動き、
エネルギーが渦を巻く場所をつくりたい

陸前高田プロジェクト 加藤 久さん2013.12.25

COLO CUP Vol.1に続き、Vol.3のゲストとしても参加してくださる加藤久さんは、東日本大震災によって大きな被害があった陸前高田に、芝生のスポーツグラウンドとクラブハウスづくりのプロジェクト(以下、陸前高田プロジェクト)を熱心に進められています。

COLO CUP Vol.03では、2014年夏の完成を目指している陸前高田プロジェクトを支援先の1つに選定させていただきました。そして、加藤久さんご自身に陸前高田プロジェクトに込めた想いやCOLO CUPに参加している私たちへの期待を、social football COLO代表の荒昌史がインタビューしました。


:先日(2013年11月中旬)は、陸前高田プロジェクトの現地にも同行させてもらいました。現地の方々の想いを汲みながら、資金調達から企画、役所との交渉まで、ひとつひとつ自ら行う久さんの姿は、献身的で、情熱的です。まずは、陸前高田プロジェクトへの想いを聞かせてください。

加藤(以下 加):陸前高田の被災状況は、客観的に見てもとても被害が大きかった場所です。もちろん他にも甚大な被害があった場所はたくさんありますが、陸前高田は、非常に甚大な被害があった地域のひとつです。そして、まだまだ復興というものを現地の方々が感じられていない。なんとか気力を振り絞って生活しているのが現状です。そういった姿を見て、僕は現地の方々の力になりたい。何か出来ることをしてあげたい。そう思って何度も現地を訪れています。

:確かに陸前高田は本当に被害の大きな場所です。私が震災後初めて陸前高田を訪れたのは2011年6月でしたが、当時はまだガレキだらけで、言葉にすることができず、ただ涙が溢れてきました。あの光景はいまでも忘れられません。

:そうなんです。そういった大きな、大きな震災から、まだまだ到底抜け出せないなかで、子どもたちが生きる力を取り戻すきっかけとなるのは、やっぱり「仲間と共に動くこと」だと思っています。人は、動かないとずっと動けなくなるし、1人ではなくて仲間と動くことで、想像以上のエネルギーが出ることがある。僕は長い間サッカーをしてきて、仲間と動くことでエネルギーが渦を巻く瞬間をたくさん見てきました。もちろんサッカーだけではないけれども、スポーツを通じて子どもたちを元気づけていきたいと考えています。

だから、この陸前高田プロジェクトでは、ただの広場ではなくて、土でもなくて、思い切り身体を動かせる芝生のグラウンドがあって、さらにちゃんとグラウンドを守るフェンスのような囲いがあって、着替えたり、シャワーを浴びたり、集まって話ができるクラブハウスがあるべきなんです。そうするとこの場所の魅力も増すので、人が集う場所となって、エネルギーが渦を巻く場所になっていく、そういう場所をつくりたいんです。

:震災のないエリアで普通に生活しているぶんには、生きるためのエネルギーを感じることはなかなかありません。でも、あれだけ大きな災害があり、たくさんの尊い命が失われました。その過酷な環境に何度も通い続けてきた久さんだからこそ、現地の生きるためのエネルギーを敏感に感じ取り、それを復興の目安にしているのかもしれませんね。

「子どもにも、大人にも、おもいきり楽しんでもらいたい」

:「なぜ陸前高田なのか」と時折聞かれることがあるのですが、明確な理由があるわけではないんです。様々な被災地に足を運びましたから、どの場所でも早くエネルギーを取り戻して、復興することを願っています。そのなかで陸前高田には、やはりご縁をいただいたと思っています。この陸前高田プロジェクトをしっかり形にすることで、微力なのですが、被災地にいい事例をなんとか残したいと考えています。

:陸前高田の子どもたちのサッカーの練習も一緒に観に行かせていただきました。そこで、久さんが子どもたちに話しかけている姿を見て、久さんは子どもたちの事がとても好きなんだなと思いました。陸前高田プロジェクトで出来たグラウンドとクラブハウスを、どういう風に子どもたちに使ってもらいたいですか?

:やっぱり「あのグラウンドに行きたい」と思ってもらえたら嬉しいですよね。あとは自分たちのグラウンドだと思ってもらって、僕たちが行かなくても、どんどん使ってもらいたいです。

:今でも仮設住宅等によってグラウンドが使えず、また、照明も復旧していない箇所も多く、陸前高田はじめ被災地では、子どもたちが思いっきりスポーツをすることができない環境にあります。

:そういった状況からなんとか少しでも状況をよくしたいということで、大震災から1年たった2012年には、悲惨な状況だった現地を整地して芝生化しました。2013年にはフェンスの代わりとなる囲いを地元の木材を使ってつくりました。そして、震災から3年が経つ2014年には、クラブハウスをつくりたいんです。人々が着替え、くつろぎ、集う場所です。

それから、この場所は、子どもたちはもちろんのこと、大人たちにもたくさん使ってもらいたいですね。今まで大人たちは自分たちのことをすごく我慢して、子どもたちや周りの人たちのためにがんばってきているんです。だから、大人たちにもこの場所では思いきり身体を動かして楽しんでもらいたい。

「誰よりも回数は多いと言えるくらい、何度も、何度も、足を運んだ」

:久さんの行動や言葉は、本当に被災地の方々を第一に考え、被災地の方々の心情をすごく大切にしていますよね。

:何回も現地に通いましたから、被災地の方々の横にいれば、何を考えて、何を求めているかを感じるんですよね。でも、被災地の方々は「僕に何かをしてくれ」とは言わないんですよ。決して言わない。

だからこそ、こちらが感じて、逆に提案をしていきたい。誰よりも足を運んだ回数は多いと自負していますから、彼らの求めている事に気付くことができる。そしてまた、被災地の方々も僕を信頼してくれている。子どもたちも「カトキューさんがまた来たな」と思ってくれている。

そんな子どもたちの中に、会ったときに、いつも僕からハグをする子どもがいるんですね。レイくんと言うのですが、彼にはイヤがられてもハグをするんです。(笑)すると、いつからか「ハグしないの?」と他のこどもにも笑いながら言われる。それがひとつの儀式になっているんですね。そうやって僕を迎えてくれている子どもたちは、やっぱりとてもかわいいです。

でもその背景には非常に過酷なことがあった。育ってきた街がなくなった。街がなくなったんですよ。それはほんとうに大変なことだろう、大変な衝撃だろうと思うんです。だから、その子どもたちの笑顔があふれる場所を、つくりたいんです。

「地元の人々に寄り添いながら、会話をしながら、進めていきたい」

:本当に街ごと流されてしまいましたからね。今では元々空き地だったのかと思うくらいに草木が生えてきていますが、そこではかつて人々が暮らし、生活が営まれていました。

:僕はよく「自分だったらこの過酷な状況を乗り越えられるのか」と考えるんです。肉親、友人を亡くした悲しみ。街が消えた現実。想像しただけで、自分には無理だなと思う。現実から逃げると思うんですね。自分だったら乗り越えられなかったのではないかと。だから、被災地の方々が健気にも思えるし、僕に出来ることはないかなと思うんです。

:献身的に被災地を支援している久さんですが、支援の際に心がけていることはありますか?

:大上段に構えずに支援をするように心がけています。なるべく現地の方々の生活に近いところで、生活の一部になるように。一過性のイベントも大事ですが、イベントだけではだめだし、僕の役割をそこには見いだしていないんですね。

:確かに現地には支援疲れという言葉もあり、イベントのために現地の方々が集客や準備に無理をするというケースもあります。

:被災地の日常は明るいものではないんですね。先は見えないなかで、なんとかやっていっている。だから僕は日常をどうにかしたいんですね。そのためには僕らがいないときにも、被災地の方々が自分たちでも前に進む行動を出来るようにしていきたいと思っています。そのためには大上段に構えることなく、地元の人々に寄り添いながら、会話をしながら、少しずつ進めていきたい。

「明日は我が身。今こそ企業が被災地で活躍すべきとき。」

:COLO CUPに参加する企業、そして、そこで働く人々に向けたメッセージをお願いします。

:被災地を忘れないでほしい。復興はまだまだこれからです。忘れないで行動をとること。それが被災地の励みになります。被災者は孤独であり、孤立していっています。これ以上、そうさせないように、少なくてもいいから具体的な行動をとってほしいです。COLO CUPのような企業のイベントを陸前高田や被災地で開催するのも一案です。

でも、本来は僕がお願いすることではなく、皆さん自身が自分のこととして考えるべきだと思います。なぜなら明日は我が身ですから。震災を自分のこととして考えたほうがいいと思います。

:東北復興の状況を総じて言えば、ようやくインフラ的な復旧に目処が立ち、これからいよいよ復興していくフェーズとなりました。復興には、多くの人々を悩ませている住まいの問題、そして、雇用の問題が重要ですよね。

:まさにその通りで、復興のための事業が求められています。経済的な循環を生んで、雇用を生み出していかないといけません。これまではボランティアや公的な支援が重要な役割を担ってきましたが、これからは、仕事をして、地元に貢献をして、被災地が活性化していかないと。そのためには企業、そして、企業で働く皆さんの知恵と行動をぜひ分けていただきたいですね。

:少子高齢化、あるいは、これからも日本で多発する大震災という意味で、課題が先に訪れたのが東北です。「明日が我が身」という久さん言葉には重みを感じました。今日は本当にありがとうございました。


NPO(特定非営利活動)法人 ヴィクサーレスポーツクラブ(陸前高田プロジェクト窓口)


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加藤 久さん

Jリーグ発足前から日本サッカーを支え、日本代表の主将も努めていた“きゅうさん”こと、加藤久(かとう ひさし)さん。第一回COLO CUPにゲストコーチとして参加。東日本大震災の復興支援活動に熱心に取り組んでいる。2013年12月、ジュビロ磐田のゼネラルマネージャーに就任することが発表された。


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インタビュー後記
social football COLO / HITOTOWA INC.代表 荒 昌史

インタビューは加藤久さんのヨーロッパでのサッカー取材の帰国直後に行いました。なによりもまずは、多忙ななか時間をとってくれて、そして気持ちの込もったお話をしてくれた加藤久さんにお礼を言いたいです。

私はHITOTOWAという会社の事業として、企業の復興支援のサポートを行っています。そのなかで、加藤久さんとのご縁をいただき、微力ながら陸前高田プロジェクトに企業紹介やCOLO CUPによる寄付金集めなどのご協力をさせてもらっています。

加藤久さんと話していると、「地元第一」というポリシーを感じます。企業の支援では、企業のメリットということも考えて推進していく必要もあるわけですが、加藤久さんご自身は、ご自身のメリットなどとは一切考えていないように感じています。それは1人の人間として尊敬すべきことだと思っています。

それから、COLO CUPに参画/参加している方々は、これまでも積極的に復興やCSR、チャリティに関わってきた方々です。だからこそ分かっていただけると思うのですが、「復興支援」について、いつのまにかどこかで私たちは私たちに出来ることに、限界をつくりはじめています。

予算、前例、上司、スケジュールといった、いわゆる「制約条件」を聞く機会が実際に増えてきました。もちろん、それらは無視できる要素ではないのですが、しかし、一方で復興は進んでいない、明日は我が身である、という真実に蓋をするのか、その蓋をこじ開けようとする勇気があるのか。加藤久さんの言葉と行動を通して、皆さんと一緒に考えていきたいと改めて思っています。

そして、願わくば勇気ある行動を共にしたい。social football COLO がそのきっかけになれれば幸いです。


荒 昌史=文

Company/団体


応援団体
[陸前高田プロジェクト]
代 表
加藤 久
窓 口
NPO(特定非営利活動)法人 ヴィクサーレスポーツクラブ
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