HITOTOWA INC.は2021年12月24日で設立11年を迎えます。一年の節目に、事業の現在地とこれからを考えるべく、2つの対談の機会を設けました。第1弾のゲストは「注文をまちがえる料理店」など多くのソーシャルプロジェクトの仕掛け人として知られる小国士朗さん。本記事は【後編】です。ぜひ前編と合わせてご覧ください。

<前編はこちら>

「素敵なうっかりさん」をどれだけ、集められるか

津村:ソーシャルフットボール事業ではこの1年半、コロナ禍でリアルな「ディフェンス・アクション」が全然できなくて。防災を届けたいけど、以前のようには場づくりができず、もどかしかったんです。

だから次の3年では手段を多様化するというか、「ディフェンス・アクション」以外にも防災に触れられる機会を増やしていきたいなと考えています。

前編で「テーマから入らない」って話がありましたけど、「防災は大事だよ」と言っても誰もやらない。実際「ディフェンス・アクション」のいいところも、「楽しさ+防災」という感じで、防災が2番目以降にくるのがよかったんだろうなと思うんです。

今後はその考え方を活かしつつ、別のアプローチも考えていきたい。たとえばシャレン!の「ソナエルJapan杯」みたいに、アスリートから防災を呼びかけてもらったり、かっこいい防災プロダクトを作ったり、SNSでキャンペーンを仕掛けたり。

たとえば「かっこいいからパソコンに貼っているステッカー」のQRコードを読むと、実は備蓄品リストが出てくる、とか。そういう「かっこいいから」とか「おもしろいから」って入り方はすごく重要だから。“素人”感覚を大事にして、防災に触れる機会のラインナップを3年でどう増やしていけるか、チャレンジしたいですね。

小国:アンバサダーのような協力者は、本気の人をどれくらい寄せ付けられるかがすごく大事だなと思う。中には名前だけでアンバサダーと呼ばれているようなケースも見かけるけど、思いがないと意味がないから。「deleteC」に協力してくれている著名人の方も、それぞれ、がんに対しての思いがめっちゃあってさ。そういう本気の人が発信するからパワーもあるし、一緒にやろうっていう思いにさせてもらえるんだよね。

だから僕はプロジェクトの仲間集めをするとき、誰に対しても「お願い」はしない。だって、こっちはいいアイデアを持っているわけだから、フェアなはずで。こんなんやりたいんですけどって言って、脊髄反射的に「それいいね」って言う人たちだけと、やる。

人が本気でおもしろがって、勝手に動き出すくらいじゃないと広がらないと思うから。deleteCで「よくC.C.レモンからCを消せましたね、大変だったでしょ」と言われるんだけど、全然大変じゃなくて。こんなんやりたいんですけどと言ったら、「おもしろい、やりましょう」と言ってくれた。

僕は「素敵なうっかりさん」て呼んでるんだけど、うっかり「それいいね」って言っちゃう人が絶対いるんだよ。だからまだ世の中に形がないものをつくるときは、そういう素敵なうっかりさんをどれくらい集められるか、だよね。

津村:そうですね。やっぱり、波を起こすのはアイデアそのものじゃなくて、そのアイデアに感化された「人」だから。そういう人たちにどう巡り合うか。

小国:あんま信じてもらえないんやけど、僕は人見知りでさ。人と会うこと自体が貴重やから、会ったときは、その人が語ったエピソードを覚えるようにしていて。エピソードって、その人が何を大切にするか、価値観や世界観もわかるのよ。だから何かプロジェクトをやろうと思ったら、脳内にストックしてあるエピソードと照合して、相性のいい仲間を探すようにしている。やっぱりプロジェクトは「人」が大事やから。

いや、笑ったほうがいいやろ〜!

小国:あとはさ、「笑い」があるとよさそう。ソーシャルアクションってやっぱり固いからさ〜。「防災一年生」って言うんやったら、あの黄色い、小学一年生がかぶるような帽子に、防災バッグがランドセルとか、そういうグッズを開発したり。名札でかい!とか(笑)。

津村:いいですね。名札いいかもな(笑)。

小国:進級する仕組みもつくって、「六年生いいなー、名札ちっちゃいし、漢字やな。俺まだ平仮名や!」って会話が生まれるとか(笑)。そういう、笑いの方向にすごくこだわってみるとか。

津村:そうですよね。社会課題はやっぱり固いから、「おもしろがれる余白」みたいなのは、いろんな人を巻き込む上ですごい大事だなと。

小国:大事やね。ツム(=津村)が「ディフェンス・アクション」の説明で、「普通の防災訓練って笑ったらあかんっていうのがありますけど、むしろ笑ってやりましょうって奨励する」って言っていたけど。あの、「笑う」ってのはすっごく大事。

津村:笑っちゃいけない、ではなくて。

小国:そうそう。笑ったほうがいいに決まっているでしょ、っていう感覚が大事やと思う。勉強みたいに真面目に防災学ぶのも大事だけど、人は誘いにくいよね。

津村:なんか、やっぱり苦しいですよね。笑ったらあかんとか。

小国:誘いやすさでいうと、笑うものは「一緒に行かない?」って言いやすいけど、笑えないものは、誘ったら悪いような気がするやん? でも自分は大事だと思っているから、だんだん、隠れキリシタンみたいになってきて。

津村:確かに(笑)。

小国:夜な夜な家に集まって一生懸命お祈りするみたいな(笑)。そんなんもったいないから、誘いやすくする、口コミで広がりやすくするためにはお笑いとか、エンターテインメントってすごい大事。それやったら「やりたい」って思う。スポーツはそれ自体にそういう要素が入っているから、「社会課題×スポーツ」はポテンシャルがあるよね。

「そのとき、あなたは家に戻りますか? 戻りませんか?」

津村:あと一個、小国さんと話したかったことがあって。この前、会社のメンバーと福島に行ったんです。そこで現地のガイドさんから聞いたエピソードで。

「ある70代のおじいちゃんが、津波からなんとか逃げた。でも家に、熱で寝込んでいる奥さんがいると言う。周りの人は戻るなと言ったけれど、おじいちゃんは戻り、結局、一緒に津波に巻き込まれて亡くなった」という話。ガイドの方はやっぱり、1回逃げたらもう戻ったらダメだとおっしゃったんですけど、僕、無理やなと思って。

小国:うーん。

津村:絶対戻るよな、と思って。そうやって理論的には正しいけど、本当にみんなやれるんかな?みたいなところ、すごい悩ましいなと。東京でも、首都直下型地震が起きたら帰宅困難者が増えるから、みんな帰宅せず会社に留まれと言うんですけど、それ無理ちゃうかなと思って。

なぜそうしないといけないか、理論的にはわかる。でも心は、ついていかへんのちゃうかなって。家で子どもが待っているとか、両親が心配だとか思った瞬間、知識として「留まる」と知っていても、行動としてはできないんじゃないかなって思ったんですね。

そういうことが、特に防災とか命にかかわるところはいっぱいあるなと思って。そこはどう考えていったらいいんだろうと。まだ自分も考えている途中なんですけど、小国さんは今の話を聞いてどう思いますか?

大事なのはソリューションより、「問い」

小国:僕は、大事なのはいつも「問い」だと思っているんだよね。「ソリューション」じゃなくて。そういう命の選択をしなきゃいけない現場も含めて、どんなときも「正解はない」と思う。確率論としての「正解っぽいもの」はあるんだけど。

コロナ禍でわかったのは、「正解ってすぐ正解じゃなくなるんだ」ってこと。ある日までは正解だと思っていたことが、緊急事態宣言になった瞬間に不正解になることもあるでしょ。

津村:そうですね。リアルで集まる「ディフェンス・アクション」がまさにそうで。

小国:だから、ソリューションは外的要因にものすごい翻弄されるわけやん。そう考えると、ソリューションを一生懸命考えるより、「問い」をどうやって作るかのほうが大事やな、と思う。

その「問い」に対してみんなが答えを考えるような、強度のある問いをつくる。100人が考えたら100通りのソリューションが生まれるし、どれもが正解。その上でその時代、そのタイミングだったらどのソリューションがいいか選択する、ってことだと思うんだけど。そんな感じでみんなが「問い」に対して考えられたらいいなって。

津村:うん、うん。

小国:以前、NHK仙台放送局のディレクターに相談をされたことがあって。毎年仙台放送局では震災の日に特番をつくるんだけど、「一番見てほしい東北の人に見てもらえないんです。なんとかしたい」と。内容も、復興で頑張っている人がいる……って描き方ばかりになってしまって、それも違う気がすると。

で、僕が提案したのは、ユーザーがカメラマンになれるアプリを作ったらどうかと。実際に「NHKテレビクルー」ってアプリを作って、テーマに沿った動画を撮影してもらって、それを活用してNHKが番組をつくるという仕組みを用意した。それでユーザーに、たったひとつの問いを投げたんだよね。「大切なものは何ですか」って。

あの震災では「ああ、大切なものってある日突然なくなるんだ」ということを、日本中が同時に自覚したんじゃないかと思う。津波の映像でさ、陸橋の上で助けを待つ人たちが映っていたのに、5分後に同じ場所が映ったら、もう全部水の下になっていたりとかして。ああ、本当に一瞬でなくなるんだって。

そう考えたら、3.11は復興を語るんじゃなく、「自分の大切なものは何か」を思い出して、記録する日でもいいんじゃないかなと思った。それでその「問い」を投げたら、あっというまに2千本の動画が集まって。

その番組のファーストカットはさ、サラリーマンの男性目線で、マンションの廊下を歩いているところから始まる。コッコッコッ……って歩いていって、自分の家のドアをガチャッって開けた瞬間に、「パパー!」って子どもたちが走ってくるっていう映像。だから、彼にとっての大事なものはその子どもたちだ、ってことだと思うんだけど。

それって絶対撮れないからNHKは。でも本当はそうやって、一人ひとりに大切なものがあって。それが実は大事。何のために防災するの。何のために減災するの。何のために復興するの。っていうことを、結果的にめちゃくちゃ考えさせられるわけ。

防災は「何のために」やるんやっけ?

小国:だからさ、首都直下型地震が起きて帰宅するかどうかの話も、その人が、どう考えるかという話で。やっぱり会社に留まったほうがいいと判断するかもしれないし、やっぱり家に帰ったほうがいいと判断するかもしれない。でもそれって、その選択でたとえ命を失ったとして、それが不正解かというと、そうではないような気がしていて。それがその人の生き方だし、思考だから。

さっきの福島のじいちゃんも、自分の人生を考えたときに、「自分は妻を置いては行けない」っていう思考を重ねてきた人生だったと思うんだよね。反対に「やっぱり自分の命を守らなければ」という思考なら、家に戻らないのも正解だと思うし。

だから一概に、この人は亡くなったから不正解、じゃなくて。その人それぞれに、人生を生きていくうえでの問いがあって。その問いに対して考えた末での行動だから。その結果亡くなったとしても、それはその人にとっての正解だったかもしれない。

津村:そうですよね。

小国:ソリューションだけで言ったら「みんな逃げようぜ」となるんだけど、僕はもうソリューションの時代じゃないと思うんだよ。どれだけ平時から、みんなが考えておける「問い」をつくるか。だから「防災減災やりましょう」じゃなくて、やっぱり「何のために?」の部分の問いはすごく大事だな、と思う。

津村:本当にそう。防災が目的になっちゃった瞬間に、なんかおかしくなるというか。防災って本来は手段で、大切な何かを失わないために取り組むもの。でも防災をやることが主体になってしまいがちで。「何のために防災やるんやっけ?」というところもちゃんと意識しておかないと、知識ばっかりついても。

小国:動けないよね。

津村:そうそう。

小国:だからさっきのおじいちゃんの話も、すごくいい問いだよね。「この状況で、あなたは家に戻りますか?逃げますか?」って。よくある問いかもしれないけど、その問いがあることでシミュレーションできるし、みんなが考えさせられる。それで自分の思考が鍛えられることはあると思うから。

豊かな「問い」を、投げかけていく

津村:今後、HITOTOWAやソーシャルフットボール事業に期待することはありますか?

小国:HITOTOWAっておもしろいよね。事業領域とか、一言で言ったら何の会社なん?っていうのはよくわかんなくて(笑)、いいな〜って。

津村:なんでマンションとスポーツやってんの、っていう(笑)。

小国:なんなんソーシャルフットボールって、っていう。で、その横には団地とかマンションの事業があってさ。でも、よくわからんけど、そこにはなんかすごく豊かな、共通する世界観があるような気がして。HITOTOWA(人と和/人と輪/人とは)、って社名も、まさに社会に投げかける問いのような気がするから。

そういう豊かな問いをどの世界に投げるのか。いまは団地やマンションであり、スポーツを通じた防災であり。だけど、その領域は広がっていくかもしれないし。そのどこかでまた、こういう問いを一緒に作っていけたら、すごい楽しそうやなと思います。

津村:僕も今日対談させてもらって「問い」はすごく大事やなと改めて思いました。ソーシャルフットボール事業として、HITOTOWAとして、次の3年、5年10年に向けた「問い」をどう掲げるのかはよく考えていきたい。その問いづくりや、問いを広げていった先で、小国さんとご一緒できたらすごく心強いし、楽しそうです。今日はありがとうございました。


以上、前・後編にわたる対談はいかがだったでしょうか。

幅広いジャンルで企画を実践してきた小国さんだからこその説得力あるお話に、私たちも多くの学びをいただきました。また、楽しさや笑いといった要素を含む「スポーツ×防災」にソーシャルフットボール事業部が取り組む意義を、改めて認識する機会にもなりました。

小国さんからいただいた多くのヒント、また「ソリューションよりも問いを」の言葉を胸に、ソーシャルフットボール事業部ならびにHITOTOWAもいっそう邁進していきたいと思います。12年目のHITOTOWAにもどうぞご期待ください。

プロフィール

小国 士朗 さん
1979年香川県生まれ。2003年、NHKに入局。「クローズアップ現代」「NHKスペシャル」などドキュメンタリー番組を制作。2013年、心臓病を患い番組ディレクターを断念。社外研修制度を利用し電通で9か月間勤務したのを機に、その後は「番組を作らないディレクター」を宣言して動き始める。2015年に企画した「プロフェッショナル わたしの流儀」アプリは150万ダウンロードを記録。2017年「注文をまちがえる料理店」を企画・実施。2018年にNHKを退局、小国士朗事務所を立ち上げる。

津村 翔士
1983年兵庫県生まれ。HITOTOWA INC.執行役員。防災士。2008年、株式会社リクルートに入社。中小企業向けの新卒・中途採用支援、派遣会社の集客支援営業を行い、MVPも多数受賞。2017年にHITOTOWAに入社し、ソーシャルフットボール事業の責任者として、Jリーグ社会連携プロジェクト(通称:シャレン!)の事務局メンバーを務めながら、サッカー防災®ディフェンス・アクション企画を推進。他にもマンション内のコミュニティづくりなどに従事。2018年より現職。

会場協力:SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)